そのチョモランマは朝鮮にあり!
先日、「一楽、二萩、三唐津」についての記事を投稿しましたが、「一井戸、二楽、三唐津」と言う茶人も多くいます。その素朴でわびた佇まいから井戸茶碗こそが、わび茶の美意識にもっともマッチした茶碗であると考える人も少なくありません。
井戸茶碗とは、李朝中期に朝鮮で焼かれたもので、本来茶の湯用として作られたものではなく、雑器であったものだそうです。それが、桃山期の武将や茶人の好みにかなって抹茶茶碗として珍重されることになったそうです。
朝鮮の地で生まれた井戸茶碗は、まさにアジアにそびえる最高峰。
雄大であり優美な佇まいはまさにチョモランマの名にふさわしい。
そんな井戸茶碗の魅力をご紹介しようと思います。
見どころ
まずは、井戸茶碗に見られる主な特徴や見どころをご紹介します。これらが全ての井戸茶碗に必ずあるというわけではありませんが、多くの井戸茶碗にはこうした見どころがあります。これらの特徴を踏まえた上で鑑賞すると井戸茶碗という存在をとらえやすいと思います。
「井戸型」と呼ばれる造形
その造形は、優美かつ雄大です。
「轆轤目(ろくろめ)」
胴にろくろを引いた跡が4段、5段と見えます。
「枇杷色(びわいろ)」の肌
深みのある肌の風合いは枇杷色と称されます。
「貫入(かんにゅう)」
表面の釉に入った細かいひび割れも見どころです。
「竹の節高台」
高台の側面に竹の節のような段差があります。
「梅華皮(カイラギ)」
高台から腰にかけて釉薬がちぢれ状の造形があらわれます。
「兜巾(ときん)」
高台の中の中心部が盛り上がったように削られています。
「目跡」
複数の茶碗を重ねて焼く際にできる跡が見込みについています。
【井戸茶碗の種類】
大井戸・・・大きく堂々としていて、高台も大きい。
古(小)井戸・・・大井戸に比べてやや小ぶり。
青井戸・・・釉色がやや青みを含む。
小貫入・・・井戸と堅手の中間で細かい貫入が一面に表れている。
井戸脇・・・古井戸とよく似ている。高台が井戸と違った単純な削りに。
大井戸茶碗 「天下三井戸」
喜左衛門(きざえもん)井戸
井戸茶碗としては唯一の国宝。ゆったりと優美な姿と荒々しい力強さを兼ね備えるTHE大井戸茶碗な不朽
の名作です。喜び、怒り、哀しみ、楽しさ、そのすべてを内包するかのような雄大な存在感があります。茶人、松平不昧公が所有。その銘の由来は元々所有していた大阪の商人の名前からだそうです。
細川(ほそかわ)井戸
優雅で美しい姿、高くくっきりと削られた小振りな高台、明るい枇杷色、鮮やかな梅花皮など、天下の
大井戸の一つと呼ぶに相応しい。喜左衛門のような雄大な力強さではなく、柔よく剛を制すようなしなやかだが底知れぬ強さを感じます。かつて細川三斎が所持していたことからこの銘がつきました。
加賀(かが)井戸
天下の大井戸の一つに数えられる所以は、その肌の景色の美しさから。喜左衛門と細川とも違う底知れぬ雰囲気は、枇杷色の濃淡が醸し出す荘厳なオーラからでしょう。
【まとめ】
掌におさまる茶碗を、「雄大」と例えざるを得ない圧倒的なスケール感が井戸茶碗にはあります。海の向こうで生まれたこの最高峰の茶碗をチョモランマと形容してもなんら大げさではありません。
井戸茶碗というと、その井戸型の造形や梅華皮(カイラギ)ばかりに目がいきがちになりますが、兜巾(ときん)や目跡などの見どころまで注意を払うと、いままで気づかなかった実に豊かな表情も見えてきます。圧倒的なスケール感と、細部まで美しいディテール感、そのマクロとミクロの奇跡的な融合が井戸茶碗が唯一無二の最高峰の言われる所以なのです。